三日月句会

俳句のこと。句会のこと。一考さんのこと。

炎天

いみじくも炎天よりの憎しみぞ 句集『櫂歌』より。昭和60年。 まず「いみじくも」である。広辞苑によると「まことにうまく。適切に」とある。 原型の「いみじ」は「『いむ(忌む)』の形容詞形で、禁忌として決して触れてはならないと感じられるというのが原…

うつくしく蛇の泳いで伊勢の雨 句集『黄檗山』より。昭和58年の作。 掲句は「人」昭和58年11月号に掲載されているが、記録を見る限り、実際に伊勢を訪れて詠まれたものではないようである。 実際の景に際してのものではなかったとしても、そこへ到るまでの作…

噴水

本降りに夜の噴水の有頂天 句集『貌鳥』より。平成元年の作。 まず「有頂天」という語が頭に浮かんだという。 「有頂天なものって何だろう」と作者はイメージを膨らませる。 「胡蝶蘭」を連想する。それでは容易に想像がついてつまらない。 続いて「噴水」を…

さくら来て死は旧暦の思ひかな 真っ先に連想するのは西行である。それだけでも納得してしまう説得力がある。 その一方で、「さくら来て」とは具体的に読もうとすると色々な見方が出来る。 「さくら」と「来て」との間には、読む場合に助詞が補われる。「の(…

辛夷

槍飛んで来さうな辛夷朝の空 花こぶし遊女の数をたづねしが 絶巓の風のこぶしとして消えむ もうひとり辛夷の家の卵買ふ 遠浅の波が鞍替へ辛夷咲く 3月17日は進藤一考の命日。今年で19年になる。 葬儀からの帰途、電車の窓から見事に満開の辛夷の樹が連なって…

啓蟄

啓蟄の屋根踏みしめて瓦職 進藤一考 第六句集「白昼」より。 「瓦職」が踏みしめているのはやはり瓦屋根だろう。足は地下足袋だろうか。 作者の家が瓦葺だったかどうかは知らないが、実際の景を見ているというよりは、作者は家の中に居て、職人が屋根の上を…

「人」200号

「人」200号が発行されたのは平成7(1996)年。 21年前ですね… ページ数362。 主宰作品はもちろん、主要同人の自選百句、随筆、 進藤一考論、200号記念論文と盛りだくさん。 当時の結社の充実度と盛り上がりが偲ばれます。 私はここで記念論文賞を受賞しました…

創刊号 主宰作品

あけましておめでとうございます。 俳誌「人」は創刊時の精神に立ち戻るべく、その当時の表紙を昨年から採用しています。 私個人としても、もう一度進藤一考の俳句を読み直し、句に対する厳しさや孤独への志向を見つめようと思っています。 この場で何が出来…

菊冷えと思ひをりしが紅葉冷え

菊冷えと思ひをりしが紅葉冷え 一考 私事だが、11月の函館句会に「菊日和」の句を出したら無点だった。 「季感がピンと来なかった」という。 東京では菊花展も開催され、晩秋から初冬の、本当に良い季節。 函館では雪も降りはじめ、最低気温は氷点下になる。…

おでん煮る微笑むやうに煮よといふ

須藤葉子先生は「人」創刊時からの同人で、私が俳句を始めた頃の「人」函館支部長として、一方ならぬお世話になりました。 句の指導というだけでなく、俳句を作る者としての佇まいや心構えなど、先生は何ひとつ押しつけがましいことは言いませんでしたが、多…

俳句総合誌管見 『俳句界』8月号より

『人』の「俳句総合誌管見」というコーナーで『俳句界』を担当しています。 いわゆる「ハウツー」的な記事には興味が無いのですが、句作の根本的な部分に働きかけるような記事が多く、興味深く担当させてもらっています。かなり好きなように書いてます。 8月…

2016年8月号

ご無沙汰しておりました。 「人」8月号です。 今号から印刷所が変り、心機一転のスタートです。 表紙は昭和54年の創刊号のものです。 初心に帰って新たな歩みをということです。 会員に宛てたことば。 何よりも句を第一に、句に厳しくというのがあるべき姿…

さんまい三昧~卵~

いろいろ試してみたくなります。

2016年4月号

毎月一日に合せて届く『人』誌。 今月も無事に。 主宰作品。 同人の作品抄。

白梅や睡魔が神の姿して

白梅や睡魔が神の姿して 進藤一考 句集『櫂歌』より。昭和59年。 白梅を見ていたら眠くなってきた。睡魔に襲われたのだ。 白梅の樹は満開で遠目に雲のように見える。それが曇っていると梅の花と空とが混然一体となって自分もその中に溶け込んでしまいそうに…

2月号 人作品抄(十人集・当月集・合鳴鐘集)

団栗を上手く蹴られぬ朝もある 森住 昌弘 朝の道に団栗が落ちている。何気なく毎朝蹴ることにしている。何をするにも思う様にいくことに安堵し続けていた。だが調子が違う、昨日のようにいかない。蹴ったつもりが、残っている、再び試みる。こんなことに心ま…

2月号 主宰作品

鶏頭やすこし稚気ある師ではある やはり進藤一考のことだろう。「すこし稚気ある」で無垢な眼差しやいたずらっぽい笑顔を思い出した。 鶏頭の花は燃え立つようだが同時に穂の揺らぎ具合が諧謔的にも見え、作者にふとこんなことを思い出させる契機にもなった…

主宰作品鑑賞 1月号より

1月は自分が風邪をひいたり父の緊急入院に伴って帰省したりと、あっという間に過ぎ去り、 こちらも随分お留守になってしまいました。 また鋭意更新に努めますので、よろしくお願いいたします。 遅ればせながら、1月号の主宰作品から。 殊によきピアニッシモ…

「冬鷗」

湧きに湧く埠頭の鷗破魔矢享く 一考 句集『白昼』より。平成三年の作。 初詣の景。作者は横須賀に住んでいたから、海の感じられる句が多い。 埠頭に鷗が「湧きに湧」いている。漁港のようにも思える。きっと天気も良く、新年の青空を飛び交う鷗の翼が日に輝…

2016年 1月号 主宰作品

あけましておめでとうございます

2016年が明けました。 本年も俳句のことを考えながら歩んでいこうと思っております。 よろしくお願い申し上げます。 表紙も新しくなりました。 写真は中山道、奈良井宿。 一年間、この表紙と共に、 重ねてよろしくお願い申し上げます。

12月号 人作品抄(十人集・当月集・合鳴鐘集)

<勝手に鑑賞>…川越歌澄 広島忌蜜の固まる瓶の底 田中耕一 広島の平和記念資料館で、被爆したガラス瓶を見た。熱線を受けて飴細工のように一瞬でぐにゃぐにゃに変形したのだという。 朝食の席だろうか、作者は蜂蜜の入った瓶を手に取り、底に蜜が固まってい…

12月号 随筆「さんまい三昧」

私の句を採り上げていただきました。ありがとうございます。 自分で作っておいて忘れておりました。 いつも絶妙の季節感で、熱燗が恋しくなったりして。

12月号 主宰作品

今号は発行がいつもに増して早かったです。 編集部各位のご尽力の賜です。 この「12」という数字が大事なのですよ。 主宰作品。 毎回淡々と載せておりますが、もう少し色を付けた方がいいのだろうか。 今回、少し画像が見づらいかもしれないと思いつつ載せ…

主宰作品鑑賞 11月号より

この号から主宰作品鑑賞を担当することになりました。 鑑賞文が掲載されるのは来年1月号からですが、 11月号のご紹介に合せて一部掲載してみます。 (いつも漢数字とアラビア数字の使い方に悩む…) 喪服着て木槿の道を通りけり 麻績 「道のべの木槿は馬にく…

仁左衛門洛中にあり燗熱く

仁左衛門洛中にあり燗熱く 一考 句集『白昼』より。 京都南座で「まねき上げ」が行われたというニュースを見ていて、この句を思い出した。 http://www.kabuki-bito.jp/news/2967 12月には南座で「吉例顔見世」が始まり、ここから歌舞伎の一年が始まる。大切…

随筆「さんまい三昧」

今月のテーマは「すし」。 文章の冒頭に出てくる「雲丹のにぎり」を食べたのは私です。 自慢したところネタにされたのです。 北海道で育った私にとっては「すし」といえばいかにネタ(じゃなくて「すし種」と云うべきでした)が新鮮かというところに尽きるの…

冬芒

冬芒未曾有の光流れけり 一考 作者はそこに異界を見ている。 穂の開ききった冬の芒はより光を通し風を容れ、一斉に靡く様には近寄りがたい荘厳さがある。 「未曾有の」という表現には、そんな冬芒が光と一体化し、大きな光芒として現前しているのを目の当た…

11月号 人作品抄

同人以上の作品抄。佐藤麻績選。 <主宰による鑑賞> 子どもばかりだつた八月十五日 藤井 綸 昭和二十年八月十五日に何歳だったかによって終戦のその日の印象はさまざまであろう。終戦を確かに受け止められたのは、玉音放送が大きく影響したとも思うが、私な…

「俳句総合誌管見」より

昨年より『俳句界』を担当させていただいております。 特集に、いろいろ考えさせられました。 私が「人」に入会して27年になりますが、つい最近まで中央の句会にはほとんど顔を出さず、サボってばかりでした。 もっとお話を伺っておけばよかった、俳句に向き…