三日月句会

俳句のこと。句会のこと。一考さんのこと。

仁左衛門洛中にあり燗熱く

仁左衛門洛中にあり燗熱く  一考

句集『白昼』より。

京都南座で「まねき上げ」が行われたというニュースを見ていて、この句を思い出した。
12月には南座で「吉例顔見世」が始まり、ここから歌舞伎の一年が始まる。大切な行事である。
片岡仁左衛門は上方の大名跡で、当代の15世がこの夏人間国宝になった。

掲句は平成4年の作だから、ここでの「仁左衛門」は当代の父の13世片岡仁左衛門である。
一世一代で演じた「廓文章」の伊左衛門、
晩年、失明に近い状態での『寿曽我対面』に於ける工藤祐経
などなど他の追随を許さぬ品格のある芸を極めた人だった。
ここで詠まれているのは、その最晩年にあたる。
ならばこそ「京都」ではなく「洛中」なのである。「あり」という云い切りも効いている。
残念ながらこの時季この地に居合わせたことがないのだが、「仁左衛門がこの地にいる」と思うだけで空気が変わる気分にはうなずける。
底冷えのする洛中で、ことさら「燗熱く」し、静かに名優と街の空気を共有しているところに却って作者の思いが感じられる。