三日月句会

俳句のこと。句会のこと。一考さんのこと。

辛夷

槍飛んで来さうな辛夷朝の空  

花こぶし遊女の数をたづねしが

絶巓の風のこぶしとして消えむ  
もうひとり辛夷の家の卵買ふ 

遠浅の波が鞍替へ辛夷咲く


3月17日は進藤一考の命日。今年で19年になる。
葬儀からの帰途、電車の窓から見事に満開の辛夷の樹が連なっているのが見えた。その情景だけが記憶として残っている。

生前よく辛夷を詠んだ。個々の花というより、大きな塊として、或いはうねりとして捉え、天地と一体となって読む者を包み込む。

隅田川のほとりに大きな辛夷の樹がある。辛夷の花は木蘭の花よりも花弁が細く、風に敏感に反応する。
作者は遊郭跡にいる。隅田川辛夷を思った私は例えば吉原を連想する。おそらく辛夷の大樹の傍らで、作者は此処にどれほどの遊女がいたのか訊いたところ、返ってきたのは辛夷の花の数を告げるものだった。
作者の想定よりかなり大きな数字だったのだろうか。花ではなくて遊女の数なんだがと思いながら見上げると、満開の辛夷が風に揺れている。美しくも儚げなその様に、過酷な運命に翻弄された女性たちの姿が重なって見える。

今年は天候不順の所為か、墨堤の辛夷の蕾はまだ固い。
でもここ数日で咲き整った樹も見るようになり、やっぱり命日なんだなと思う。

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