三日月句会

俳句のこと。句会のこと。一考さんのこと。

12月号 人作品抄(十人集・当月集・合鳴鐘集)

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<勝手に鑑賞>…川越歌澄

広島忌蜜の固まる瓶の底  田中耕一

 広島の平和記念資料館で、被爆したガラス瓶を見た。熱線を受けて飴細工のように一瞬でぐにゃぐにゃに変形したのだという。
 朝食の席だろうか、作者は蜂蜜の入った瓶を手に取り、底に蜜が固まっているのに目を留める。
「あの日」もこんな風に何気なく一日が始まり、それぞれの暮らしがあったはずだ。
 資料館に展示されている瓶も、普通の生活の道具であり、酒だったり水だったり、いろいろなものの器として生き生きと使われていたはずなのだ。それが一瞬にして無機物の塊になってしまったことを、やはり忘れてはならない。
 瓶の底に凝った蜜を、作者はどう見たのだろう。人々の苦しみに思いを致し、また、濃縮された命の輝きをそこに見出したのかもしれない。日常のふとした情景にも心の留まる一日である。