12月号 人作品抄(十人集・当月集・合鳴鐘集)
<勝手に鑑賞>…川越歌澄
広島忌蜜の固まる瓶の底 田中耕一
朝食の席だろうか、作者は蜂蜜の入った瓶を手に取り、底に蜜が固まっているのに目を留める。
「あの日」もこんな風に何気なく一日が始まり、それぞれの暮らしがあったはずだ。
資料館に展示されている瓶も、普通の生活の道具であり、酒だったり水だったり、いろいろなものの器として生き生きと使われていたはずなのだ。それが一瞬にして無機物の塊になってしまったことを、やはり忘れてはならない。
瓶の底に凝った蜜を、作者はどう見たのだろう。人々の苦しみに思いを致し、また、濃縮された命の輝きをそこに見出したのかもしれない。日常のふとした情景にも心の留まる一日である。