三日月句会

俳句のこと。句会のこと。一考さんのこと。

炎天

いみじくも炎天よりの憎しみぞ

句集『櫂歌』より。昭和60年。

まず「いみじくも」である。広辞苑によると「まことにうまく。適切に」とある。
原型の「いみじ」は「『いむ(忌む)』の形容詞形で、禁忌として決して触れてはならないと感じられるというのが原義。転じて、極度に甚だしい意で、善にも悪にもいう(広辞苑・ひとつ前の項)」とのことで、掲句の場合は、炎天が契機となって憎しみという感情が自分の中で滾っているさまが想像できる。「まさにあの炎天」というところか。炎天の強烈さは、憎しみの感情の度合いに通じる。まさに「いみじ」き措辞である。

歩いていて、気が付くと何らかの感情に囚われていることがある。作者の場合は「憎しみ」だった。もちろん唐突に湧いたものではない。普段は心の奥底に秘めているものであろう。それが、ふと気が付くと何かへの憎悪を掻き立てている自分がいる。いつからだろう。なぜだろう。考えるうちに、常ならぬ強烈な暑さに思い至る。厳しい気候に対峙する際に、人は知らず知らず攻撃的になっているのかもしれない。そのことに気付いて我に返り、淋しさに似た感情を覚えているようにも覗える。

こんな思いをする作者の体験の重さは、きっと私(読み手)の及ぶべくもないものなのだろうと、つまらないことでくよくよしている自分に喝を入れたところ。

※写真は本文とは関係ありません。
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