三日月句会

俳句のこと。句会のこと。一考さんのこと。

かいつぶり

乱読に当てなかりけりかいつぶり

『貌鳥』より。平成元年。

「乱読」とはそもそも手当たり次第に読むことなので、この句の「当てなかりけり」は念を押しているようなもの。「わざわざ云わなくても」と思ったものだった。

今日突然、この句がしっくり来た。
本屋で脈絡のない文庫本を買い込んだときに掲句を思い出したのである。

云わずと知れた「かいつぶり」。
一度潜るとしばらく出てこない。水中を長いこと移動して、次に浮上した時には思わぬ所に現れる。そしてすぐまた潜る。
その様子を見て作者の脳裏に「乱読」ということばが浮かんだ。
勿論カイツブリは当てずっぽうに潜っているわけではないのだろうが、水面だけを見ている人間からはまことに気まぐれに、ともすれば楽し気に映る。

蛇足になるが、「乱読」だって目先の「当て」がないだけで、知らず知らずのうちに血肉となっているものである。

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