その一辺の秋の風
五稜郭その一辺の秋の風
『貌鳥』より。平成二年十月。
五稜郭は日本初の西洋式の城郭で、いわゆる星形の堡塁が特徴的である。
平成二年十月、函館で「人」全国大会が開催された。残念ながら私は当時大学生で、地元での大会に参加することはできなかったが、小さな函館支部としては大変な事業で、この大会のために早期退職した人までいた。みんな張切っていた。懐かしい。
大会翌日の吟行コースには、当然五稜郭も入っていた。
堀の内側を歩く時は、その星形をなぞる軌跡になる。円ではなく直線の連続である。
その、ある「一辺」で、作者はふと違う空気を感じた。それを「秋の風」と捉えた。
十月も中旬となると函館は晩秋の雰囲気となる。早い年は下旬に初雪が降る。
更に五稜郭は戊辰戦争最後の戦場でもある。それを踏まえてのことだろう。
堡塁の鋭角を曲ったところで訪れた、ややひんやりした「秋の風」。旧幕軍の兵士らもこの場所で感じたかも知れない風。時を超えた何かが作者に訴えかけたのかもしれない。
作者には他に、
稲妻の欲しきかたちに五稜郭(昭和55年)
がある。
やはりこの形状を緊張感のあるものと捉えているのが窺われる。
現在五稜郭は函館の主要な観光名所で、春には堡塁に沿って植えられた桜が本当に美しい。外堀周辺はジョギングコースで、市民の憩いの場でもある。しかし、今でも砲台や慰霊碑は構内に残っており、ここが戦場であったことを彷彿とさせる。
五稜郭の近くで育った者としての句を、いつか成したいと思っている。