紅梅
紅梅に最もちかき船櫓
『斧のごとく』より。昭和53年
作者の詠む紅梅は、よく水辺にある。
洲になにもなし紅梅の一進す
洲を掘りて水位の確か薄紅梅
昂然と紅梅あらば渚まで
作者の居住地横須賀方面の風景のようにも思う。怠慢ゆえにまだ確かめていない。
海辺の、しかも断崖のような近づきがたい位置に紅梅がある。
紅梅であることは分かるが、立っているところからはよく見えない。
もう少しよく見える位置へ移動したいが、ちょうどいい場所がない。
停泊しているあの船の櫓からなら、いい具合に見えそうだ。
ここで読者の視線も上へと誘われる。
真青な空と海との間の紅色が際立っている。
脱線するが、「櫓」は「矢倉」とも書く。
そうなると俄然緊張感を帯びるのだが、掲句の趣旨はそれではないだろう。
作者はどちらかというと白梅より紅梅に親しみを感じていたような雰囲気がある。
白梅の山際へ退く筏村
白梅や雄鹿の絶えし山の気ぞ
白梅を磧の日色とぞおもふ
白梅に対しては、触れ難くて遠くから眺めているような佇まいである。
「思いのまま」という品種はひと枝に紅白それぞれの花が思い思いに咲く。