十二月
重と丼膳もありけり十二月
『白昼』より。平成四年。
たぶん鰻。そしてたぶん作者は鰻好き。
普段は旧暦に拠ることの少ない世の中が、十二月に入った途端「師走」を連発する。なんとなく節操のない感じがするし、だいたいまだ「霜月」なのだが、実際慌ただしい気分になるのは確かである。
街なかも忘年会や年の瀬の気分に溢れ、作者もその空気の中に居る。昼食を摂ろうと入った店の品書きには、同じ鰻とご飯の組み合わせでも様々なかたちがある。
「丼」はささっとかき込んでもうひと頑張りという感じ。
すこし落ち着いて心静かに味わうのなら「重」。
「膳」となるとたとえば身なりの良い老紳士の姿だとか、会社の接待の場面が思い浮かぶ。
「膳もありけり」というところから、これは筆者の選択肢の外にあったような印象。
忙しい人もそうでない人も、それぞれの目的があって、それぞれの道を行く。
人間のそんな営みの交わる一点に目を留め、そこに年の瀬の空気を読み取っている作者である。
写真はいつだったかの有楽町(だったかな)。
慌ただしいはずの街の、奇跡的な無風状態。