青き柚子
青き柚子鞄に入れて夜行性 一考
「貰った柚子は真青であった。鞄に入れても発光するような色だった。習慣となってしまった夜型の生活を助長するようだった。」(『自註現代俳句シリーズ・Ⅱ期 20 進藤一考』より)
昭和55年の作。
初めて読んだとき、「青き柚子」「鞄」「夜行性」が絶妙に引き合っていて強く印象に残った。本人も述べているように、鞄の中の青柚子の「発光するような」強い色合いの印象が、深夜ひとり沈思する作者に呼応しているのだろう。
青柚子の光はもちろん黄熟したそれの明るさとは違う。しかも鞄の中にあるのだから見えているわけではない。作者は闇の中でその冷たく鋭い光を感じ、そのことが却って闇の深さや重さ、作者の孤独を描き出している。
また、鞄は持ち主と共に移動し、持ち主の人物像を彷彿とさせる性格のものであるという点も意味深い。少々主旨を逸れるかもしれないが、がっちりした黒革の、置いたら自立するような鞄を想像した。
句集『斧のごとく』