八十八夜
八十八夜・・・立春から八十八日目に当たる。蔬菜類の苗はようやく成長し、養蚕は初眠ごろ、茶摘は最盛期で、農家は忙しい。この日以後は霜がないとせられている(角川文庫『俳句歳時記・春の部(昭和62年)』より)
個人的には「夏も近づく八十八夜」という「茶摘み」の歌を連想する。幼稚園児の頃のお気に入りの歌で、真冬に熱唱している録音が残っている。
たぶんあれが私の歌人生のピークだった。
改めて思いを致すに、春でもなく夏でもない、季節の動きだす気運の中という雰囲気があるように思う。
農事に疎いとこういう時に淋しい。
そう思うに至ったのは、一考さんの以下のような句に触れたから。
八十八夜樽の裏より子ども出て(S52)
湯地獄の漣もまた八十八夜(S58)
手拭の寸のきまりも八十八夜(H4)
どうということもない情景なのに、「八十八夜」というこのひとときが、逢魔が時のごとき独特の停滞感を表出している。
新幹線で静岡県を通過中に茶畑が見える。
茶摘みの頃というのは新緑の頃。
目に染みる。