三日月句会

俳句のこと。句会のこと。一考さんのこと。

作品・須藤葉子


今年退会された函館支部の須藤葉子先生。

「先生」という語はそう簡単に使うものではないと思っているけれど、
私が俳句を始めた時からお世話になり、人間として尊敬もしている。
「ものを云いたければ俳句で云おう」と私が決めたのは、今思うとこの人影響かもしれない。

毎年函館支部で出している合同句集からいくつかご紹介。


夏至の日の茸の黒き裸尾根
休む手をまるく置くなり冱つるなり
さくら紅葉余熱をもつて卵焼く
抱卵期鴉がジャックナイフなる
コップの水の直立天皇誕生日
春一番四股名酒の名似たるかな
突き当たるものに止まりて盆の虫
カレーにもシチューにもなる雪催
航笛のつづきを眠り白露なる
箆の飯箆で落せり彼岸雪
一年のまん中にあり白牡丹
身ほとりの日に日に淡し日記買ふ
香水の使はずに減り桜東風
船虫や石を立てれば仏なり
サーフィンの日昏れては鵜のあそびかな
おでん煮る微笑むやうに煮よといふ
春めくや阿弥陀に似たる馬系譜
沢蟹の流れのこして閉校す
石蹴って波光をふやす卆業期
牛乳の膜ほど睡り氷柱光
一頭は歩む牛なり山の霧
山門の猫が集めてゐる冬日
草抜くともんどり打って一切空
生涯を木綿ごころに冬木の芽
座布団の耳木枯しのあるばかり
夏杉に背筋倣へば杉の冷え
ひらいても窪むてのひら霊祭


 進藤一考の句が好きで、「河」所属時代に、一考さんに「先生のご指導を受けるにはどうしたら良いのですか」と直接問い合わせて、その結果函館支部を立ち上げた人である。かっちりした二句一章の作品を書き写しながら、以前はこんな句が東京例会でもたくさん出されていたなと思い出した。
でも、その合間合間に見られる、ちょっと可笑しみのある句や、無垢な、それでいて透徹した眼差しの感じられる句にドキッとしたりもする。

現在92歳。結社は退会されたけれど、本質的に俳人であることは動かしようのないことだと思っている。